アル中クライマーの忘備録

好物は酒と山と岩。

山のリスクマネジメントと自分に足りないもの。

マルチやトラッドなど、沢登りなど比較的ハイリスクな山をやる私に対し、登山の経験がない人やスポークライマーからよく「お前がやってることってヤバイよね。」みたいなことを言われる。はたから見たらめちゃくちゃ危険なようにも見えるが、実際はそうでもない。

ここ数年、色々な人と山に行ってきたが強い人に共通しているのは徹底したリスク管理をしていて、想像力に長けていること。数年前に経験した山岳救助以降特に意識することになったリスク管理。書籍や、登山研修の報告書から言葉をいくつか借りて今現在の自分の考えや課題をまとめておきたいと思う。

山のリスクと向き合うために 登山におけるリスクマネジメントの理論と実践:東京新聞 TOKYO Web

 

まず第一に"計画段階でのリスク予想"。

自分は山に行く前にざっくりとこれらのことを考えている。これらが適切でないと計画として破綻している可能性があると思っている。

・天候はどうか。雷雨や強風などの気象リスクはあるのか。

・行くメンバーはどうか。技量があるのか初心者なのか。

・勝手を知っているメンバーか初対面か。

・どこにいくか。何を登るか。エスケープはどうするか

・役割分担はどうか。

・必要な装備は何か。

 

次いで"行動中のリスクとその対応"。

・地形的なリスクはあるか。(道迷い等)

エスケープするとなったらどこを歩くのか。

・天候の急変はないか。

登攀においては

・支点は確保できているのか。

・落ちたらだめなのか、落ちてもいいのか。

・岩は安定しているのか

・進退窮まらないか。

・クライマーが落ちたらどうなるか。

・落石があったらどうするか。

 

自分は沢登りが好きなので、下記の称名滝をフリーソロした中島徹氏の報告書が非常に参考になった。

 リスクを伴うフリークライミングにおけるメンタルコントロールの重要性について
      :称名滝フリーソロの例(中嶋徹)

予定日まであと2日という切迫した状況とフリーソロのプレシャーだった。勇気を出して決行するのか、またの機会に延期するのか、もう諦めるのか決断するしかなかった。

プレッシャーに押しつぶされ、リハーサルで疲弊しきって悲観的になっている頭で必死にリスクを見積もろうとした。しかしこの時思い出したのは自分にとって不都合な経験ばかりで、どう頭をひねっても滑落のリスクは高いように思えた。

(中略)

もう一度、今度は冷静に一つ一つのリスクを見つめなおすことでそれらのリスクは自分に乗って取るに足らないものであることが分かった。(表1)

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私から見ても"無謀だ"と思える登攀で、中島徹氏も葛藤があったようだが、徹底したリスク管理の上で称名滝のフリーソロを成功させている。

 

彼ほどすごい登攀には到底及ばないが、自分もアルパインクライマーの端くれとして「行ってみたい。でも怖い。〇〇だからやめておこうかな」と葛藤がある。リスク管理とは話は転ずるが、先述した書籍の中で"複数の相反する行動原理を許容する精神的な強靭さ"の項でこう書かれている。

登山前には登山に対する強い思いを持ち、挑戦的なルートを求めてあえて困難を設定する一方で、挑戦が生み出す不確実さを自覚し、不安も感じていた。そして挑戦意欲と不安という矛盾する感情が判断を揺れ動かしていた。一方、登山後には、限界を乗り越えた達成感を感じる一方で、自分が成し遂げた成果が運の上に成り立っていたのではないか、生きて還ることができたのは何なる運なのではという楽観主義の反省も強く感じていた。(中略)

限界に近いから挑戦意欲が湧くが、それは同時に不安につながる。どちらもその山の困難度に由来しているので、両者の不協和をおいそれと解消できない。そこで挑戦したいという認知に整合的にするためには「危険はない」「大丈夫なはずだ」と思い込みが生まれる。逆にリスクへの評価が変わらないとすれば、「自分はそれほど山に登りたくなかったのだ」と思い、自分を納得させてしまうかもしれない。(中略)

アルパインクライマーが生き残っている背後には、危険への感受性の高さがあるが、心理学的に見れば、挑戦心や達成感がある中で、リスクが怖いと思ったり、成功が生んだと自覚したりすることは稀有なことなのである。心の中の不協和の中で揺れ動きつつも、相反する行動原理を心のうちにと留め、一方に偏らない判断が出来ること自体、彼らをリスクから遠ざける重要な資質と言えるかもしれない。

この文章、めーーちゃくちゃよくわかる。カッコいい(難しい)ところに行きたい!!と思う反面、「いや、難しいし怖いし、別に登らなくてもいっかな・・・」と躊躇することもよくある。でもやっぱりそういう山を成功した後は筆舌に尽くしがたい達成感を得ることが出来る。

自分の行動原理がそうなっているので承認欲求が駄々洩れのアカウントは生理的に受け付けないんだと思う

昨年大崩山のクロスケオテ谷を遡行(Rock&Snow90号)したクライマーのA氏の「迷ったときはハードプッシュ。死なないギリギリを乗り越えたら強くなる」という言葉も心にある。彼らの表面上の文言は違うものの、称名滝のリスク排除も死なないギリギリを乗り越えた上で得られた結果であるように思う。

彼らのような先鋭的なクライマーの思考をインプットして思うのは、"自分は臆病すぎる"という事。それはハイキングを始めてから今まで変わりがないように思っている。

 

リスクを必要以上に恐れる+自分の能力を過小評価する=登れるところを登らない。

→成果を逃している。

 

昨シーズンはボルダラーや、スポーツクライマーと沢に行く機会が数回あった。当時は「巻きだな」と思うようなところも果敢に攻めていく。結果的に事故無く、無事に登れている。悪く言えば彼らは無謀。悪く言えば自分はリスクマネジメントをしすぎていた。何が正解で何が過ちかはわからない。ただ間違いなく言えるのはケガをしないこと。これは絶対。

今週末も春のような陽気でぼちぼち冬山から岩へ、沢へと気持ちがシフトしていく。

今年は受容できるリスクを見極めながら、死なないギリギリを乗り越え自分にとって価値のある遡行,登攀を一本でも成し遂げたらなと思っている。

 

それでは皆様、

ご安全に!

 

 

 

沢登りの装備

2021年時点での自分の沢登りの装備を忘備録として。

※今回は自分が使用(携行)している道具についてなので、ヘルメットやウェア類等は省略しています。基本的な装備一覧については技術書や他の方の記事を参考にされてください。

 

①ザック。日帰りではオスプレーのミュータント38とアークテリクスのアルファFL30を使用している。これらに②の防水パックを入れている。ちなみに泊まりではミュータント52を使用している。


アルファFL

・良い点:軽い(635g)、ロールアップでザック自体にそれなりに防水性がある。
・悪い点:浸水した場合や、濡れ物を入れた場合水がたまる、トップからの水圧に弱い

ミュータント38

・良い点:広い雨蓋。水抜き穴を付けているので水が溜まらない

・悪い点:やや重い(1300g)

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②防水パック

漬物袋を使っていた時期もあるが、イスカのウェザーテックインナーバッグを信用している。泳ぎ沢やシャワーが予想されるときは2重にしている。マジで濡らしたくないもの(予備の着替えなど)はさらにモンベルのドライバックに入れ厳重に保護。ちなみに携帯は防水パックに入れてザックインする派です。

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③プロテクション

・主にカムを使用。行く沢にもよるが大体#2~#.2を携行。スモールサイズはトーテムカムがいいのでは?と最近思い始めている。またハーケン数枚、ナッツ、トライカムも沢に応じて持っていく。

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④ロープ

上から
・フローティングロープ(ファイントラック/スローバック7mm*20m)
・3認証ロープ(エーデルリッド/スイフトプロドライ8.9mm*30m)

・ハーフロープ(ペツル/ルンバ8mm*50m)

大滝登攀をしない限り、以下の理由で沢では30mで十分だと思っている。

沢登の多くの滝は15m以下。その度50mを出すのは億劫。数mの滝でロープを出す心理的敷居が下がる。

②高巻きでは屈曲して重くなる

③携行するカムは1セット。50mのリードは弾数的に・・・?

④滝の音で意思疎通が困難になる。 

⑤シングル50mは重い

以前はハーフロープを沢にもっていっていたが、ハーフのシングル利用ってのに加えて水濡れの強度低下を考えるとシングル規格を通過しているロープがいいのでは?と思っている。スイフトは52g/m * 30m =約1.5kgとそこまで重くないので重宝している。

今シーズン10回ほど沢に行っているが、50mロープを使用したのは1回のみ。自分が行く沢では基本的に30mで事足りると考えている。

泳ぎ沢や、登りが得意でないものがPTにいる場合お助けロープを兼ねてフローティングロープを携行するようにしている。先日SRT-1を受講したが泳ぎ(流される可能性)のある場合においては非常に有効だと考えている。

急流救助訓練(SRT-1)を受けた話 - 山日記

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⑤スリング類+その他ガチャ類

スリング

・180cmスリング(主にビレイ点)

・120cmアルパインクイックドロー(ビレイ点/中間支点)

・60cmアルパインクイックドロー(ビレイ点/中間支点)

・120cmナイロンスリング(お助け紐/予備)

・60cmナイロンスリング(ギアラック/予備)

・アラミドスリング(懸垂下降バックアップ/予備)

 

その他ガチャ

捨て縄(6*10m)

ヌンチャク(DMMアルファトラッドを愛用)

タイブロック+マイクロトラクション(ユマール/荷揚げ/レスキュー)
ATCガイド

ロックカラビナ2枚ほど

スカイフック

ホイッスル/ナイフ。

 

タイブロックとマイクロトラクションは毎回携行している。

スカイフックには8mmの細引きをかけ、人工しやすいようにしている。

ホイッスルは濡れても大きい音が出るものを。

ちなみにハンマーはチコを使用している。携行方法については下記参照。

ハンマーの携行方法 - 山日記

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⑥ファーストエイドキット

モンベルの2Lは雨蓋orすぐ取り出せるところに入れている。

deuterのはホントのピンチ用(三角巾等)で比較的ザックの奥に入っている。

 

すぐ取り出したいものとして

ヘッデン(予備電池)、ココヘリ、トイペ、テーピング、常備薬、サポーター。

誤ってモバイルバッテリーを移しているが、普段はザックの中に入れている。

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サコッシュ

自分はサコッシュを使う派。どこで買ったか覚えていないチャムス。生地が厚く、強度がある。ちなみにそこにハトメで水抜き穴を開けている。沢登りの数少ない映えアイテムだと勝手に思っている。

入れているものは地形図、コンパス、行動食(塩タブレットアミノバイタル等)、ヒル避け、虫避け。

腕時計もネオプレン等を来ていると邪魔なのでサコッシュに取付けている。

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⑧無線機

慣れたメンバーであればホイッスル/ロープサインで事足りるが慣れないメンバーや30m以上ロープを出す見込みの時は無線機を持っていくようにしている。

左2個は特定小電力。右はアマチュア無線(免許必要)

ショートアンテナの特定小電力はスマホ用の防水パックに入るので便利。

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⑨ツエルト

Juza Field Gear/エムシェルター

ファイントラック/ツエルト2ロング

 

エムシェルターは男二人で対面で三角座りするビバーク時にはストイック系ツエルトだが軽量で気に入っている。

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⑩行動食

自分はすぐシャリバテしてしまうタイプなので、即燃料補給できるようにシリアル等の行動食をボトルに入れてザックにひっかけている。お気に入りはハーシーチョコビッツ。おいしいのに凍らない/溶けない。年中食べている。

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⑪ポイズンリムーバー/軟膏

虫(ヒル)に刺された時のために雨蓋にポイズンリムーバーと軟膏を入れるようにしている。

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これで自分が沢にもっていく道具としては概ね以上となる。

まだ沢登り4年目。改善の余地は十分あると思うが忘備録として。

何故頑張るのか。

漠然と"頑張らないと"と何かに追われるようにトレーニングはしているつもり。

フリーで5.11代は登れるようにはなって5.12に打ち込んでいる。15kgを担いで1日行動できるようになった。ロープワークも覚えた。クラッククライミングにも打ち込んでいる。水難救助訓練も受けた。

 

で、行きたいところあるか?といわれると正直無い。

無いわけではないけど、強いものではない。行けたらな~ぐらいのぼんやりとしたもの。

でも楽しいことはしたい。すごい景色も見たい。(楽しい≠ゆるふわ)

自分の周りに強い人は沢山いる。その中で時折聞くのが「一緒に行ってくれるパートナーが少ない」という話。

自分が強くなれば彼らのパートナーに選ばれるのではないか。

「〇〇に行きたいんだけど、一緒にどう?」って声をかけてもらえる事。

それに乗っかればハードだけど。壁に張り付いてるときは「もう嫌だ~~」って思うけど、印象に残っている山は大体そういう時。

 

人と人の相性はもちろんあるが、日ごろからチャンスを掴む努力をしていてこそ誘いを受けたとき"行きます!!!"と答えられるようになると思う。

 

自助努力はしているつもりだが、ある意味で他力本願なところがあるのかもしれない。

また、良くも悪しくもリーダー向きではない性格だろう。

 

以上、支離滅裂な酔っ払いでした。後日消すかも。

 

急流救助訓練(SRT-1)を受けた話

レスキュー3開催の急流救助訓練(スイフトウォーターレスキューテクニシャン・レベル1:SRT-1)を受けてきました。

RESCUE 3 JAPAN

 

山のアクティビティの中で一番好きと言っては過言ではない沢登り。

休みの度に沢に入っている私。平日3日間+受講料が約4.5万円となかなか勇気がいりましたが、ちゃんとしたところでちゃんとした知識を学べるのであれば受けていて損はないかなーと思い切って受講しました。冬山やってる方々はJANで雪崩講習受けてるらしいですし、似たような感覚なのかな?

 

正直、ボートの操船など沢登りの範疇を越えているところもありますが、個人的には受けてよかったなと思います。その理由は

・川に対する漠然とした不安から具体的なリスクを読み取れるようになった。

・それに伴ってやってはいけないことが明確になった。

・深刻な事態に陥った時(陥らないように)、どう行動すればいいかを理解することが出来た。

・救助の際にそれに潜むリスク(2次災害)を理解することが出来た

・(沢登りにおいても)安全に救助を行う方法を習得できた。

・急流での限界を知ることが出来た。

 

天候のこともあって二日目はひたすら泳ぎ。

さすが消防関係。「泳げ!!がんばれ!!泳げ!!!」と掛け声が飛び交う。

そういう体育会系な感じ、嫌いじゃない。むしろスキ。

 一人も知り合いがいない、同業者もいない中での講習でしたが、すぐに打ち解けられたのはうれしかった。

 

3日間の講習を終え、なんとか終了証とステッカー&ワッペンをいただきました。

以下はざっくりとした演目と、内容。詳細は伏せて置きます。気になる人は受講するか、直接連絡ください!!

 

日程:7/13-15

内容:1日目座学、2~3日目実技

参加者:9名。うち6名が消防関係。個人的に受けてるのは私だけでした。

 

Day1:座学

  1. レスキュー哲学:救助を行うにあたっての考え方の基本
  2. コミュニケーション(ハンドサイン)
  3. レスキューの選択肢(手を差し伸べる、泳いで助けに行くetc....)
  4. 水力学(水の流れ方や特性)
  5. 川の地形と危険個所(比較的安全地帯や、近づいては行けない危険個所)

Day2実技

  1. 倍力システム
  2. 基本的な泳法。
  3. スローバック
  4. コンタクトレスキュー
  5. ライブベイト

Day3実技

  1. テンションダイオナグル
  2. フィックスが張られている際の渡渉
  3. ボート操船
  4. テザーシステム(ロープで岸からボートを操作)
  5. 浅瀬渡渉
  6. フットエントランプメントからの脱出

 

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左:ディフェンシブスイミング 中,右:ロープをつけた救助(泳ぎ)
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左:ロープスロー 中:ロープフィックス(1/3システム) 右:ストレーナー体験

 

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終了証。有効期限は2年らしい。



 

 

比叡山 ムササビファミリールート

2021.11.04 追記

登攀にあたる注意点

①1Pの下部が大きく崩壊しています。崩壊箇所は通らずに、右寄りを直上して下さい。

チェーンで固定した岩がありますが、チェーンで止まっている状態ですので触らないようしてください。

まだ浮いている箇所があるかもしれません、トップが登る際は、岩陰に退避してのビレイが必要です。

②前回の整備(2009年)で、整備上、ビレイ点にボルト、ハンガーを設置しましたが、今回、3P,4Pのビレイ点を撤去しました。

よって、ビレイ点のハンガー設置は6P中、5,6Pの2か所となりましたので、カムの多めの携行が必要です。(0.5〜2番)

概ね、ルート上の草、枝は伐採しましたので快適に登れると思います。

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2021.04.28

比叡山1峰北面Bピーク Bフェイス・ムササビファミリィルート。

 

Bフェースは1峰北面でもっとも大きなフェースである。上部に威圧的なハングを持ち、その下にも全体的に急傾斜で登るにはかなりの困難を予想される。このルートはそうした威圧的なフェースをナチュラルプロテクション主体で登ったもの。各ピッチも5.11クラスが連続し、その内容の素晴らしさは比叡山諸ルート中でも屈指のものといえる。(新版 日本の岩場より引用)

 

相棒K氏に以前より「ムササビファミリー登らない?」と声をかけられていたが、ルートの内容的にも登れる気がしなかった。

2020年秋からクラックの聖地三倉岳に通い、比叡でもクラックのショートルートを登り、矢筈のもぐらたたきで洗礼を受けた今、改めてお声かけ頂き「いっちゃいますか!!」との事で今回のクライミングが決まった。

 

 

 

07:30頃 トイレ横駐車場で装備の合わせ。

持って行ったギアはキャメロット0.4-4を2セット、0.3を1、ナッツ1セット、スリング60cm,120cm4本。ヌンチャク9本(ノーマル6,長3)、8mm 50mダブルロープ×2、アブミ、スカイフック、ザック1。

リードは空身で登り、フォローがザックを背負うスタイルとした。

といってもザック内には水1L、アプローチシューズ2、フリース2の程度。フルでカムを持つリードよりも軽いのではないか?

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取付き前の準備

千畳敷からニードル左岩稜方向に20分ほど歩き、黄色の反射材が目印になっているところが取付きだ。

 

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少し高くなっているところから岩峰を望む。

今回の登攀にあったって、宮崎の岩場、日本の岩場。

2009年8月の"天と地の間”様と

blog.goo.ne.jp

2009年5月の"今日もお天気"様の記録を参考にさせていただきました。

blog.livedoor.jp

 

 1段高くなっているところから1P目を望む。

1P目 泥の詰まったチムニー~フェース~ハンド

"1P目は短くて簡単。5.9ぐらい"との記述があったが、実際に目の前にするとクラックもホールドもない。その割にはブッシュや土が詰まっている(笑)

9時クライムオン。

登攀直後から埃にまみれる。後から自分が撮った写真と過去の記録を見返すと、なんと岩がかなりはがれている!!

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左:2021年の状況 右2009年の状況

ボルトで吊られた岩は確認できたが、そのホールドを使用禁止とすると、そのフェース面のグレードはかなりのもの。プロテクションもとれない。しばらく周囲を見渡すと右手側にハンドサイズのクラックが走っているので右にトラバースしカンテに周りこんだ。

おそらくピナクルの上部まで行けば初登時のルートと接続するだろうと思い、吊られた岩を左下に見る位置の草付きテラスでピッチを切る。終了点はカム3つ。

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左:1P目終了点    右:吊られた岩を左下に見る


 2P目 フィンガー~フェース

K氏リード。下部はフレークをレイバック気味に登り、フィンガーを左上する。薄被りはガバをつなぎながら越えてゆく。

ロープが15m出たあたりで「ダブルクラックがあった!!」との声が聞こえ、ひとまずほっとする。2P目終了点はオールアンカー2本。

 

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1P目終了点から2P目を望む

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2P目以降の終了点はオールアンカー2本。


3P目ダブルクラック~チムニー

自分が2P目のビレイ点に到着するとクラックの中から80cmほどのモフモフした何かが飛び出てくる!ムササビだ!!!二人で歓喜を上げ写真に収めようとするが、尋常じゃない登攀力で逃げて行った。とてもうらやましい・・・w


自分はビレイ点からのクラックへの入り口が微妙に悪く少しドキドキしながら入っていく。ダブルクラックに入り込むとレイバックやステミングを交え高度を上げていく

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3P目ダブルクラック。奥にBピークを望む。

チムニーに入ってからの左に抜けるハンドトラバースが悪い。足元は切れていて高度感もある。これはもしかして・・・矢筈のもぐら叩きルートでやったやつだ!!!

右刺しで抜けようと思ったが、チムニー内に足を決められず、もぐら叩きよりやや難しい印象。左刺しが正解だったか??

A0交えながら縦カチをつないでかろうじて突破。

その後直上していく際に草を踏んだか、スリップして3mほどフォール。X4の0.5ががっちり止めてくれた。ビレイありがとうございました。

うるさいブッシュをかき分け短いチムニーへ。記録ではその後左にトラバース。

細かいフットホールドをなかなか拾えず、ハンドジャムに宙吊りになったり、テンションもらったり、奮闘しました。意を決して水平クラックを渡っていく。カンテから先の状況がわからずドキドキする。コーナーにX4 0.75を決め、思い切って乗りこむ。

アンダーからのマントリングを返し、数m歩くと3P目終了点があり胸をなでおろす。

先の見えないカンテへのトラバース。初登者意気込みに感服する。

最近のクラック修行がなければまず突破できず、敗退していただろう。

 

終了点はオールアンカー2本。1本は緩んでいたのでトライカムで補強。

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左:このトラバースが緊張した。 右:3P目終了点

 

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奮闘の証。テーピングが破けたw

4P目 クラックを直上~岩盤状のフェース。 

ここにきてようやくルート上にボルトを発見する。このピッチは3本ボルトが打たれていた。

相方の素晴らしいリードで自分は難なく突破。出だしと抜けのムーブが起こせず、A0。

相方の「見た目ほど悪くない」と言っていましたが、自分にとっては悪かったですw

傾いてはいるが安定したテラスが4P目終了点。

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左:3P目終了点から4P目を望む。右:下部核心を越えたところ。岩盤状のフェースを登る。

5P目 コーナーのフィンガークラック

奇数ピッチリードの私にとって最後の仕事。4P目ビレイ点から数m上がるとコーナークラックの右手側に回り込めそうなバンドが走っている。そちらに偵察に行ってみたが、最後のトラバースで行き詰りクライムダウン。改めてコーナークラックに取付く。

離陸はステミングを交えながらやや土の詰まったフィンガー。コーナーに入り込み何とか0.3を決める。

それ以降はフリーでリードする登攀力も、マイクロカムに落ちるメンタルもなく堅実にエイド。ナッツの4番やキャメロットの0.1番にアブミをかけそーっと高度を稼ぐ。

6mほど人工で登り、最後は豪快にマントリング返して5P目終了。

 

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左:フィンガーのコーナークラック 右:フォローで登る相方。強い。

 

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こんなのにアブミを・・・・汗

6P目 水平トラバース後カンテを直上

威圧的なハングの下に傾斜の強いスラブ。

相方はすいすい登っていくも、フォローの自分はすぐ行き詰まってしまう。

1本目のボルトまでは直上し、そこからはランナウト気味のトラバース。

完全にメンタルが負け、足を信用でき無くなり行き詰る。

初登者が2時間も躊躇していた気持ちがよくわかる。

最終ピッチ、フォローの自分が抜けれないなんてことがあればあまりにも悔しいので、意を決して?細かいカチにスカイフックアブミをかけてトラバースを処理。生きた心地がしなかった。(実際は落ちても振られるだけだが。)

いやー、これをリードで行った相方は本当にすごい。尊敬します。

カンテに回り込み階段状を超えるとトップアウト。無事に抜けれて安堵したからなのか、達成感からなのか分からないが、感極まり、思わず涙が頬を伝う。

 

イスクライミングでした。

 

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右:いざ最終ピッチ!! 右:高度感、威圧感のあるトラバース

 

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トップアウト。感極まった。

 

6Pで約8時間にも及ぶクライミング。時間がかかったのは自分のクライミングが遅かった所為である。10年前に整備されて以降、1件しか登られた記録のないが、この素晴らしいルートがほとんど登られていないことが不思議なほどである。

フェースのパワフルなムーブから、バランシーなスラブ、奮闘するワイドクラックと変化に富んだルート。そしてミニマムボルト。

今日はかろうじて何とか突破出来たが、最近のクラック/スラブ修行。人工壁での登りこみがなければ敗退していただろう。

現在の自分の実力では"なんでもありの本チャンルート"というスタイルでの登り方だったが、実力がついたらオールフリーでの突破を目標に再度訪れたい。

 

普通車を売って軽バンに乗り換えた話。

先日の根子遭からアルパインに対する意欲が低迷して12月はのんびりくじゅうの坊がつるでテント泊したり、入って半年ほど放置していた登山サークルに参加してみたり。あとはフリークライミングに打ち込んだかな。

年末年始は寒波と休みとパートナーがうまいこと重なったので、アイスクライミングを楽しむことが出来ました。(インスタ&YAMAP参照。ちゃんと記録書こうと思っていたけどバタバタしてなかなか・・・)

記録書くのもYAMAP更新してるし良いかなぁ・・・と甘え、

忙しいのを言い分けに放置気味なのもそろそろ不味いとおもってようやく重い腰があがりました。

 

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根子岳救助

2020.11.23

根子岳での山岳救助に携わる貴重な経験をしたので。

 

この日、自分たちは朝から外岩でのクライミングを楽しんでいた。

夕方になり、下山して携帯の電波が入ると阿蘇在住の山仲間(以下A氏)から「根子岳で滑落事故発生。来れますか?」とニュースのスクリーンショットと共にメッセージが送られてきた。(19時ごろ)

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幸い明日も休み。今から動ける。帰宅し、超特急で支度をする。

私には山岳救助の経験はない。何がいるのだろう?フルで頭を回転させる。

夜を明かす可能性があるのでツエルト、エアマット、ダウン上下、シュラフカバーなど最低限のビバーク装備。日が暮れると気温はおそらく氷点下。要求は防寒着を持っているのだろうか?ロープは?クライミングギアは?兎にも角にも持っているものを車に積み込み、20時ごろ自宅を出る。

 

車を走らせながら飯を流し込み、仲間と計画を詰めていく。(集合場所まで2時間弱かかるので、別に慌てて食べなくてもよかったw)天狗のコルの下部あたりにヘッドライトが見えたそうだ。おそらく我々が根子岳に登る際の下山時に用いるルート上だ。

 

早く現着したA氏含めた先発隊と、22時ごろ着予定の自分と鹿児島の山仲間(以下B氏)の後発隊の2PTに分かれて入山。先発隊は21時ごろ入山。

我々後発隊は21半頃に合流。食料買い出しと装備の打ち合わせをする。緊張のせいか異様に喉が渇く。スティックパンを2本ほど追加で腹に入れ、22時頃入山。

 

23時頃、先発隊のヘッデンとその上(目測で100〜200m程?)に別のヘッデンが見える。

"おーーい"と叫んでみたり、ホイッスルを鳴し、ヘッデンを向ける。

要救の物と思われるヘッデンが付いたり、消えたりする。先発隊に無線を飛ばす。"要救のヘッデンは見えないがホイッスルの音は聞こえる"との事。我々も後を追って歩みを進める。

 

0時20分

先発隊が要救を発見する。

付き添いの方は無事。

滑落された方は、残念ながら仏様になられていました。

 

我々は現在地(2回目の懸垂下降の支点)で待機せよとの指示を受ける。


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1時30分頃

先発隊と要救1名、また別PT(おそらく山岳部?)で救助に来られていた方と合流。

 

合流後はB氏と要救がアンザイレンし、私がビレイ(ロワーダウン)する形で下山を開始した。

適宜"ロープ張り気味で"などと指示を受けながら難所を抜けて行く。

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3時頃

普段の倍以上の時間をかけてがれ場に到着。後はがれ場を歩くだけだ。

だが、下山間際でここでルートファインディングを誤ってしまい最後は藪漕ぎ。

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5時頃登山口到着。要救を宿に送り届け消防に通報して行動終了。

 

今回の救助に当たって、夜間行動の能力、ルートファインディング、ロープワーク等、体力など総合的な力が要求された。

山に入る以上、リスクは0ではない。

我々には想像する力がある。リスクをコントロールする能力がある。常に初心を忘れずに、慢心することなく山に向き合いたい。

 

 

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翌日公開されたニュース記事。

 

 

A氏記録

根子岳 遭難救助活動 2020-11-23 https://yamap.com/activities/8835814 #ヤマップ

 

B氏記録

根子岳 遭難救助活動
https://yamap.com/activities/8814832